木器保存処理室より15
使っていた証拠が見つかりにくいシナノキ
梅雨後半に入り、歴史館のシナノキも花が終わりに近づいています。
民俗例では、新芽から葉が開ききるまでの樹皮が剥ぎやすく、径20?に満たない若木の繊維が紐や布に向いているようです。歴史館のシナノキもちょうど良い太さです。
シナノキの繊維は、化学繊維が登場する以前、最も丈夫な素材として活用されてきました。「信濃」の語源ではないかと推測する説もあるぐらい、県内でも盛んに利用されてきました。
ところが、樹皮の利用が主だったため、なかなか遺跡から出土しません。当館所蔵品では、千曲市社宮司遺跡でわずかにあるだけです。その使い方は、平安時代に建物の柱が沈まないよう、柱下の台にしたものです。言ってみれば、どんな木でもよかった?感じです。
しかし、よくよく見ると、他の樹種を使った台の場合、厚い板状に加工しているのに対し、シナノキを利用した例は、径20?以下の芯持ち材の角材でした。台にして埋めるだけなら皮付きでもよいはずですが、もしやシナ皮を剥いだ後に残った余りの材を利用したのでは?
皮を剥いだ痕跡を見つけるのは難しいですが、平安時代にシナノキを伐採し、集落内で使っていることまでは確認できました。今後、低湿地遺跡調査で、編物など断片(樹種同定可能な、あまり加工されてないもの)が見つかってくれることを期待したいものです。
※10/3〜11/29秋季企画展「樹木と人の交渉史」