令和5年度古文書愛好会探訪会 安曇野を巡る旅へ
10月13日(金)に毎年恒例となっている古文書愛好会の探訪会が行われました。探訪会は現地の文化財や史跡にふれながら、古文書にも親しみ、仲間と親睦を深める貴重な研修の機会です。今年は、安曇野市文書館にて館蔵資料の調査員の方々と交流させていただけることになり、安曇野の地を訪れました。拾ヶ堰(じっかせぎ)、穂高神社、大王わさび農場、安曇野市文書館、安曇野市豊科郷土博物館というコースで、歴史館職員2名を含む25名が参加しました。
安曇野は、今でこそ米どころとして知られていますが、複合扇状地の扇央部分が大部分を占め、水の確保が難しい土地でした。そこで農業用水確保のため平安・鎌倉期より堰が開削されてきたのですが、江戸時代には年貢米はもとより自分たちで食べる分にも苦労していました。そんな状況を打開するため江戸時代後期に開削されたのが拾ヶ堰です。安曇野の堰の中でも最大規模で、松本市の島内地区で奈良井川から取水し、ほぼ標高570メートルの等高線に沿って約15キロメートルも流れ、烏川へ合流します。工事は農閑期に行われ、延べ6万人以上の農民が参加し、わずか3カ月で水を通すという驚異的な事業でした。現在も約1,000ヘクタールを灌漑しています。
さて探訪会当日ですが、バスは高速を梓川スマートインターで下り、拾ヶ堰がサイフォン式で梓川の下を通っている場所を横目に一路松本方面へ進みました。梓川そして奈良井川を越え、車窓見学でしたが島内地区の頭首工(水門)と取水口を見てから安曇野へ向かいました。梓川と交差させてでも奈良井川から水を取ることを決めた当時の人々…実際に2つの川を見比べると、川幅の広い梓川ですが奈良井川との水量の違いは一目瞭然でした。
中堀地区でバスを降り、拾ヶ堰を万水川(よろずいがわ)との交差地点を目指して散策しました。この日はお天気に恵まれ、歩きながら景色を眺めるにも気持ちの良い絶好の散策日和でした。目の前にきれいなアルプスが広がるのですが、拾ヶ堰はそこを山へ向かってゆったりと流れていきます。高いところから低いところへ流れるのではなく、等高線沿いを通してあるからこそ見られる不思議な景色でした。機械の無い時代に、これほど正確に測量し、人の手だけで工事を行った偉大さを改めて実感することができました。
次に穂高神社を訪ねました。穂高神社は、三殿あるご本殿一殿を20年ごとに造り替える大遷宮と、20年の間に2度、本殿の修復や清掃をする小遷宮を500年以上前から行っています。2009年に行われた大遷宮では中央の中殿が造り替えられるとともに、127年ぶりに拝殿が新築されました。また、昨年行われた小遷宮の記念事業として鳥居や社務所も建替えられ、境内は比較的真新しい建物が多いのですが、とても静かで、厳かな空気が漂っていました。
次に訪れた大王わさび農場では、おいしい昼食と買物を楽しみました。「Myわさび丼」と題したご飯は、わさびの茎を漬けたほろっこ漬けをかけたり、お好みの量のわさびと薬味をのせて出汁をかけたりと2つの味を楽しむことができ、シンプルながらとてもおいしくいただきました。大王わさび農場がある穂高一帯は扇状地の扇端にあたり、扇央部分で地下にしみ込んだ水が湧き出る地域です。明治時代、この湧き水がわさびの栽培に向いているとわかり、わさび畑の開拓が進みました。園内では水車のある景観としても有名な万水川と蓼川(たでがわ)の合流地点も見られます。複合扇状地の扇端を流れてくる万水川は盆地のあちこちから湧き出る水を集めて流れてきます。拾ヶ堰と交差した地点ではわずかな流れだった万水川ですが、合流地点に来るころにはかなりの水量をたたえています。安曇野の自然の不思議が感じられる場所の一つではないでしょうか。
次に今回の一番の目的地である安曇野市文書館を訪ねました。文書館では館長の平沢さんや職員の松澤さんから、開館5年目を迎える文書館や収蔵資料についてご説明をいただきました。歴史館でいう閲覧室のような場所や収蔵庫を見せていただいたのですが、どの場所にも興味津々。会員の皆さんの「知りたい!」という気持ちの強さがひしひしと伝わってきました。
見学の後は、文書館の古文書調査委員の皆さんが作業を行っている部屋にお邪魔させていただきました。現在目録を取っている羽鳥家文書について説明していただいた後、個別に意見交換を行いました。古文書にどのようなことが書かれているのかを尋ねたり、逆に「こう読むのかな?」と読んであげたりする様子や、使っている辞書や地域の地名をまとめた資料などについて尋ねる様子など、熱心に聴き合う姿が見られました。会員の方、古文書調査委員の方の「熱」を感じる一幕でした。
そして最後に訪れたのは安曇野市豊科郷土博物館です。入口の安曇野の航空写真を前に館長の原さんに解説をしていただきました。写真からはいくつもの川の扇状地であることがうかがええ、実際に見てきたことと照らし合わせながら拾ヶ堰への理解が深まったように思います。中の展示室は、「おじいちゃんおばあちゃんにとっては懐かしい、子どもたちにとっては昔のこと」がテーマとなって、世代を超えて一緒に楽しめるような工夫がされていました。会員の皆さんも、「おばあちゃんの家にあった」「これやったことある」と懐かしみながら当時の生活の様子を語り合う姿が見られました。
天候にも恵まれ素敵な1日を過ごすことができました。実際に訪ねたり他の団体と交流したりすることで、歴史の奥深さや、古文書の面白さを一層感じたのではないでしょうか。今後の活動へのエネルギーになったことと思います。こうした研修と親睦の機会をこれからも大切にしていきたいですね。